前記事で書いたように、紙テープには様々な8x8ドットのフォントをパンチすることが可能だ。今となってはお話にならないような低解像度のフォントだが、限界的な条件で複雑な文字を表現するための様々なデザイン上の工夫がなされており、見比べると大変興味深い。
これらのフォントの多くは、HP95LXの低解像度LCD画面での日本語表示に用いられたものである。恵梨沙フォントはその代表例と言って良い。以下のアニメーションに示すように極めて視認性に優れたフリーのフォントである。
恵梨沙フォント
恵梨沙フォントがリリースされる前は、前記事でも紹介したMacのOsakaフォントが用いられていた。以下のアニメーションに示すように、これも大変優れたフォントである。恵梨沙フォントと比較すると、やや幅広のプロポーションとなっているように思われる。
Mac Osaka
Macの8ドットフォントには以下のゴシック体もあった。これはボールド書体風のフォントで込み入った漢字を表現するのには適していない。とは言え、紙テープ上にパンチしてみると、これはこれで面白いフォントである。この他に明朝体もあったように記憶しているが、残念ながら手元には見当たらなかった。
Mac Gothic
上記の二つのフォントはMacの商用フォントなので同社のマシンを保有していないHP95LXユーザーには利用できなかった。このため1993年に恵梨沙フォントが公開されるまでの間、当時国民機として広く普及していたNECのPC98シリーズ搭載の16ドットフォントをコンバートして8ドットフォント化したものが代用品として用いられた。元のフォントをツールで強引に縮小したものなので視認性はお世辞にも良いとは言えなかったが、HP95LXの小さな液晶画面上に表示できる情報量を劇的に増やすことが可能だった。
PC98搭載16ドット変換フォント
さて上記の各フォントは、かれこれ30年も前にHP95LX等のパームトップコンピュータで利用が広がったものだが、フリーの8ドットフォントとしてはこれらの他に2000年代初頭に公開された美咲フォントがある。このフォントの特徴は、一部の記号を除いて総ての文字パターンが7x7ドットの範囲に収まっていることで、文字同士を隣接して表示しても1ドット分の行間と字間が確保できる。しかし文字パターンが7x7ドットなので上記の8ドットフォントと比較すると漢字の視認性が若干劣ることも事実だ。因みにゴシック体と明朝体の二種類が公開されている。
美咲ゴシック
美咲明朝
パンチテキスト:Jean Cocteau, Cannes V(堀口大學 訳)
こうして各フォントを用いた出力を比較してみると8ドットフォントは紙テープと相性が良いことが実感できる。パソコンの画面上で見るよりも文字を構成するドットがはっきりと視認できるので、それぞれのフォントのデザイン上の個性が際立って見える。出力内容に応じてフォントを使い分けるのも一興だ。
という訳で今宵も般若心経をパンチして見た。一部の漢字についてはJIS第1/2水準に含まれていないので、バイナリエディタを用いてフォントファイル内に「外字」を定義して利用している。ところでこれも写経の一種と言って良いのだろうか...。
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